「ディストピア小説」という小説ジャンルをご存じでしょうか?
ディストピア小説は小説の中でも人気が高く、普段あまり本を読まない方でもタイトルだけは聞いたことがある、というような有名な作品も数多く存在するジャンルです。
今回は、ディストピア小説の金字塔から日本人の最近の作品まで、魅力あふれるディストピア小説をご紹介します。
目次[ 表示 ]
- SF小説の魅力が詰まったディストピア小説とは?三原則も紹介
- ディストピア小説三原則
- 【金字塔編】ディストピア小説おすすめ8選!
- 『華氏451度』/レイ・ブラッドベリ
- 『時計じかけのオレンジ』/アントニイ・バージェス
- 『動物農場』/ジョージ・オーウェル
- 『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』/フィリップ・K・ディック
- 『一九八四年』/ジョージ・オーウェル
- 『すばらしい新世界』/ハクスリー
- 『蝿の王』/ウィリアム・ゴールディング
- 『審判』/カフカ
- 【名作編】ディストピア小説おすすめ6選!
- 『わたしを離さないで』/カズオ・イシグロ
- 『侍女の物語』/マーガレット・アトウッド
- 『アイ・アム・レジェンド』/リチャード・マシスン
- 『人類の子供たち』/P.D.ジェイムズ
- 『白の闇』/ジョゼ・サラマーゴ
- 『高い城の男』/フィリップ・K・ディック
- 【日本人編】ディストピア小説おすすめ8選!
- 『虐殺器官』/伊藤計劃
- 『白い服の男』/星新一
- 『殺人出産』/村田紗耶香
- 『リリース』/古谷田奈月
- 『バトル・ロワイアル』/高見広春
- 『残月記』/小田雅久仁
- 『新世界より』/貴志祐介
- 『火星に住むつもりかい?』伊坂幸太郎
- 人類の行く末か?衝撃の未来に震撼せよ
SF小説の魅力が詰まったディストピア小説とは?三原則も紹介

ディストピア小説とは、その名の通り「ディストピア」を描いた作品です。
「ユートピア」の対義語である「ディストピア」は、科学や身分の階層制が進んだ末、反理想郷・暗黒社会となってしまった世界のことを指します。
産業革命期、科学技術や社会構造が進歩した先には理想郷が待っているという人類の希望的観測を否定し、批判する目的で様々な未来社会が描かれ始めました。
現在では科学技術がもつリスクは周知の事実ですが、多くの人類が思考停止状態のまま嵌ってしまった全体主義社会など、様々な「ディストピア」が描かれ続けています。
また、SF小説という印象が強いディストピア小説ですが、その裾野は広く、科学系の小説に限らず様々な作品が生みだされています。
ディストピア小説三原則
「ディストピア小説三原則」とは、日本の翻訳家・エッセイストであり、文芸評論家として『朝日新聞』など様々な媒体に書評を寄稿している鴻巣友季子さんが提唱した基本三原則です。
それによると、ディストピア小説とは
1.生殖と婚姻のコントロール
2.言語と表現の統制
3.学術芸術の抑圧
という「基本」があるということです。
勿論、これにあてはまらない小説もありますが、多くの名作にはこの三原則を見つけることができます。
是非、あてはまるか考えながら読んでみてください。
【金字塔編】ディストピア小説おすすめ8選!

『華氏451度』/レイ・ブラッドベリ

※引用元:Amazon
あらすじ
華氏451度。この温度で紙は引火し、そして燃える。
主人公モンターグは「ファイアマン」として、日々451と刻印されたヘルメットをかぶり、禁止された「本」を燃やしてまわる。
しかし、風変わりな少女と出会い、本と心中する老女を見て、「本に何かがある」と悟った主人公は、燃やされる直前の本を1冊家に持ち帰り…。
本が禁止された社会は、「悪」か?
ディストピア小説として最も著名な作品のひとつが、この『華氏451度』。
ここで描かれる「ディストピア」は、紙の書物が禁止され、所持が発見されるとその場で家ごと焼かれて逮捕される、という社会です。
紙の書物が禁止されたといっても、電子書籍は流通しておらず、また漫画や娯楽雑誌は通常通り流通しています。
これは、「本の禁止」という社会制度が大衆の自発的意思から発生したからです。
大衆は、何故本を禁止するに至ったのか?本を禁止された社会は果たして「悪」なのか?
本を失った人々の行く末を、ご覧ください。
- 著者
- レイ・ブラッドベリ著/伊藤典夫訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 299頁
- 価格(税込)
- 946円
『時計じかけのオレンジ』/アントニイ・バージェス

※引用元:Amazon
あらすじ
近未来の高度管理社会で、15歳の少年アレックスは平凡で機械的な毎日にうんざりし、暴力で気晴らしをしていた。
仲間とともに夜の街をさまよい歩いては、盗み、破壊、暴行、殺人を繰り返す。
やがて、国家の手が彼に迫り…。
非行少年は科学技術で矯正できるか?
『ビブリア古書堂の事件手帖』でも紹介された名作古典SF小説『時計じかけのオレンジ』。
罪悪感を持たず、日夜仲間とともに悪逆非道の限りを尽くす少年アレックスは、仲間の裏切りにより国家の手に陥り、映像と化学物質によって強制的に人格を矯正されます。
音楽描写とともに描かれる衝撃的な悪逆の数々に、脳が刺激される本作は、イギリスの20世紀文学の代表作とまで言われる名作。
映画など、様々な翻案作品が制作されてきました。
科学技術の力で矯正された少年は、その後どのような人生を歩むのか?
結末が本によって異なるため、是非最終章まで収録されているハヤカワepi文庫を入手してください。
- 著者
- アントニイ・バージェス著/乾信一郎訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 318頁
- 価格(税込)
- 968円
『動物農場』/ジョージ・オーウェル

※引用元:Amazon
あらすじ
生産せずに消費する生き物「人間」への隷属から逃れるため、動物たちはついに農場主ジョーンズを追放し、全ての動物は平等であるという理想を実現した「動物農場」を設立した。
2本足で立つものは全て敵であり、人間のようになってはいけないなど、守るべき規律を定めた〔七戒〕を掲げ、動物たちは自由と自主性のためそれぞれの労働に励む。
しかし、やがて〔七戒〕は書き換えられていき、平等は歪んでいく…。
西洋知識人たちを鋭く批判した、スターリン圧政下のソ連がモデルの寓話
レーニンを老ブタ・メイジャー、トロツキーをインテリ指導者ブタ・スノーボール、スターリンを大統領となったブタ・ナポレオンに置き換え、ソ連の歴史をほぼ史実通りに皮肉を込めて再現したディストピア小説の傑作『動物農場』。
「すべての動物は平等である」と定められていたにもかかわらず、いつしかそれが歪められ、かの有名なフレーズ「すべての動物は平等である。だが一部の動物は他よりもっと平等である。」という結果になるまでの過程が描かれています。
かなり政治色が強い内容のため人を選びますが、示唆に富んだ世界的に価値の高い小説です。
物語の中で考えることを放棄し、あるいは不正に対し沈黙する動物たちの姿を批判的に描くだけでなく、著者自身が付け加えたあとがきの中で「誰でも自分の意見を持ち、それを自由に公表する」ことを嫌悪する知識人たちを痛烈に批判しています。
物語の結末を避けるためには、何をすべきだったのか。
是非、物語を紐解きながら考えてみてください。
- 著者
- ジョージ・オーウェル著/山形浩生訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 208頁
- 価格(税込)
- 880円
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』/フィリップ・K・ディック

※引用元:Amazon
あらすじ
第3次世界大戦後荒廃した地球に残ったリック・デッカードは、希少故に高価になってしまった本物の動物を飼うための金を稼ぐべく、火星から逃亡してきた8体のアンドロイドの行方を追う。
他人への共感度合いを測るテスト「フォークト=カンプフ感情移入度測定法」を用いて人間にまぎれたアンドロイドを見つけ出し始末していくデッカードであったが、アンドロイドが見せる人間性に触れるうちに、人間とアンドロイドの区別を付けられなくなっていく…。
人間とアンドロイドの違いとは?
フィリップ・K・ディックの代表作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』では、アンドロイドの技術が最早それ自身にも人間かアンドロイドかの区別がつかなくなるほど発達した未来社会が描かれます。
人間かアンドロイドの区別が専用の試験を用いなければ不可能となった結果、「他者への共感力」という人間固有の能力を誇示するため、動物を飼育することがステータスとなり、人々は「共感ボックス」を用いてマーサー教の教祖と肉体的融合をすることにのめりこむ…。
主人公のデッカードは生まれてからずっと自分のことを人間だと思い込んできたアンドロイドや、人間らしさを示すアンドロイドを目の当たりにした結果、人間とアンドロイドを試験によって区別し、「処理」することに疑念を抱いていきます。
人間とアンドロイドの違いとはなにか、ひいては「人間とは何か?」という根源的な問いをテーマとしたディストピア小説の金字塔です。
- 著者
- フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 336頁
- 価格(税込)
- 990円
『一九八四年』/ジョージ・オーウェル

※引用元:Amazon
あらすじ
〈ビッグ・ブラザー〉率いる党が一党独裁を敷いている、全体主義社会。
人々は「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」というキャプションとともに、テレスクリーンを通して生活を絶えず監視されていた。
真理省記録局に勤務し、歴史の改ざんを仕事としている党員ウィンストン・スミスは、絶対服従を求める党に不満を抱きながら生活してたが、奔放な美女ジュリアと恋に落ちたことをきっかけに、反政府地下活動に参加するようになる。
衝撃の未来図は、「未来」か?
「党」によって新しい文法や二重思考を与えられ考える力をなくし、テレスクリーンで常時監視されながら生きている近未来の人々。
高度監視社会型ディストピア小説として知らない人はいないほど有名なSF小説ですが、果たしてジョージ・オーウェルが描く衝撃の社会は、「未来」なのでしょうか?
監視カメラが普及し、国家による民衆の監視が容易になった今、『一九八四年』はもうそこまで近づいているかもしれません…。
行き過ぎた全体主義社会がどのようなメカニズムで形成され、保たれているかがリアリティをもって描写されている作品です。
- 著者
- ジョージ・オーウェル著/高橋和久訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 512頁
- 価格(税込)
- 990円
『すばらしい新世界』/ハクスリー

※引用元:Amazon
あらすじ
世界戦争の終結後、暴力を排除し、安定を世界のモットーとした世界が形成された。
人間は受精卵の段階から選別され、5つの階級に分けられて徹底的に区別されていた。
孤独な青年バーナードは、出かけた野人保護区で恐るべきものに出会う…。
自らの尊厳を失った人間たち
機械文明が発達した結果、老いも病気も争いも隠し事も全てなくなり、誰もが社会や他の人間のために労働に従事する安定した「すばらしい新世界」。
勿論「すばらしい新世界」とは皮肉であり、受精卵の段階から徹底的に管理され、自身が生まれ育った環境に一切疑問を抱くことなく、愛情を特定の誰かに注ぐこともなくなった人間たちの様子が諧謔的に描かれています。
ひとつの受精卵から大量に生産される労働者階級γ・δ・εと知識人階級α・βに分けられ、一生を定められた労働に費やす人々は、自分たちが「すばらしい新世界」にいることを信じて疑いません。
人間の尊厳とは何か?気を抜いていると、簡単に失ってしまうものかもしれません…。
- 著者
- オルダス・ハクスリー著/黒原敏行訳
- 出版社
- 光文社
- ページ数
- 339頁
- 価格(税込)
- 1,166円
『蝿の王』/ウィリアム・ゴールディング

※引用元:Amazon
あらすじ
戦火を避けるため、少年たちを乗せて飛んだ飛行機が海へ墜落し、同乗していた大人たちが全員死亡した。
南太平洋の無人島に置き去りにされた少年たちはラルフとピギーの二人の少年を中心に規則を作成し、交代で烽火を上げ続け、救助を待つ。
最初こそ協力し合っていた少年たちであったが、次第に仲違いをしていき、秩序を守ろうとするラルフ一派と、自由に過ごすことを望むジャック率いる狩猟隊に分かれていく。
ある日、当番の少年が烽火を怠ったために近くの沖を通りかかった船が通り過ぎてしまい、ラルフ一派のなかで対立が巻き起こる…。
獣性にまみれた人間の本性を描いたロビンゾナーデ
『蠅の王』は、19世紀以前に流行した突然文明社会から切り離された登場人物たちを描く「ロビンゾナーデ」と呼ばれる文学ジャンルのうちのひとつで、徐々に文明の化けの皮が剝がれていく少年たちの姿を悲劇的に描いています。
文明社会から切り離された少年たちは好き勝手に生きることに惹かれ、カリスマ的な指導者のもと殺人すらも厭わなくなり、規則を作り秩序を守ろうとするラルフは次第に孤立していく…。
登場するのが全員少年である、というのがさらにこの作品を際立たせています。
人間は簡単に文明を捨て去ることができる、ということを示した作品です。
- 著者
- ウィリアム・ゴールディング著/黒原敏行訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 367頁
- 価格(税込)
- 1,100円
『審判』/カフカ

※引用元:Amazon
あらすじ
銀行の業務主任を勤めるヨーゼフ・Kが30歳の誕生日の朝目覚めると、監視人を名乗る2人の訪問者から彼に逮捕状が出ている、と告げられる。
Kは自分が潔白であり、扱いが不当であると言い募るが、監視人から通常通り出勤してよいと告げられ、勤め先へと向かう。
数日後電話で通告があり、Kは最初の審理へと赴く…。
理解ができない不条理がヨーゼフ・Kと読者を襲う
カフカの代表作である長編『審判』はSF小説ではありませんが、最初から最後まで主人公が何の罪に問われているかが分からず、まともに審理が行われないまま最期を迎えてしまう、という不条理さに満ちた世界が描かれます。
邦訳では『審判』というタイトルが定着していますが、これは初期の邦訳タイトルが一般的になってしまったためであり、原題に近いのは近年の新訳で用いられている『訴訟』です。
長編小説のためカフカ作品特有の不気味さを徹底的に身に浴びることになります。
明確な判決も無く、登場人物たちの意図も全くわからないという暗黒の物語世界を是非お楽しみください。
- 著者
- カフカ著/辻セイ訳
- 出版社
- 岩波書店
- ページ数
- 393頁
- 価格(税込)
- 1,067円
【名作編】ディストピア小説おすすめ6選!

『わたしを離さないで』/カズオ・イシグロ

※引用元:Amazon
あらすじ
「提供者」と呼ばれる人々を世話する優秀な介護人キャシーは、生まれ育った施設で過ごした不思議な青春の日々を回想する。
外界から隔絶された施設の中でおこなわれる図画工作に極端に力を入れた授業、毎週受けさせられる健康診断、そして、「保護官」と呼ばれる不思議な教師たち…。
施設ヘールシャムに隠された秘密とは…?
カズオ・イシグロ文学の最高到達点
ノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロの文学世界を体現した作品として世界中から高い評価を受けている本作『わたしを離さないで』。
ミステリー要素もあり、SF小説を読みなれていない方でも入り込みやすい作品です。
外界から隔絶された施設で育った少年少女たちの物語が中心となるため、『約束のネバーランド』の世界観が好きな方や、クローン人間という設定が好きな方におすすめです。
日本で生まれてイギリスで創作活動を続けていたカズオ・イシグロが当時「もっとも日本的な作品」であると自評する作品のため、カズオ・イシグロ文学入門にも適しています。
- 著者
- カズオ イシグロ著/土屋政雄訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 450頁
- 価格(税込)
- 1,078円
『侍女の物語』/マーガレット・アトウッド

※引用元:Amazon
あらすじ
女性が生殖のための道具となってしまった近未来。
宗教国家ギレアデ王国において、配属先の邸宅の主である司令官の子供を生むという役割を担った侍女オブフレッドは、仕事や財産、自由を持っていた過去を忘れることができずにいた。
監視や処刑に怯えながらオブフレッドは逃亡の道を探っていたが、ある日そんな生活に転機が訪れる…。
排他的な宗教国家で、人間性や自由を剥奪された女性たち
アメリカのキリスト教原理主義勢力によって建国された、有色人種や他宗教は排除され、国民は常に監視される全体主義的宗教国家ギレアデ王国。
環境汚染や原発事故、遺伝子実験など科学技術の無秩序な使用によって出生率が著しく低下した結果、健康な女性は「侍女」と呼ばれ、ただ子供を産むだけの道具と定められます。
主人公のオブフレッドという名前も変わった名前のように聞こえますが、これは生殖相手の男性の名前に所有を表す「of(オブ)」をつけたもので、オブフレッドはフレッドの所有物、という意味になります。
女性の人間性や自由が剥奪された社会で、男性と女性はそれぞれ何を主張するのか。
是非最後の章まで読んでから、作品に自分なりの評価をつけてみてください。
- 著者
- マーガレット・アトウッド著/斎藤英治訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 573頁
- 価格(税込)
- 1,320円
『アイ・アム・レジェンド』/リチャード・マシスン

※引用元:Amazon
あらすじ
突如蔓延した疫病により、地球はその姿を一変させた。
人類は絶滅し、ただひとり生き残った人類であるネヴィルは自宅に籠城しながら吸血鬼を相手に絶望的な闘いの日々を送っていた。
「地球最後の男」であるはずの彼であったが、ある日、太陽のもとで活動する女性を発見する…。
ウィル・スミス主演!傑作映画の原作小説
2007年にウィル・スミス主演で3回目の映画化をされた人気ディストピア小説『アイ・アム・レジェンド』。
現在の邦訳タイトルは映画に合わせてこのタイトルとなっていますが、本作は新版が刊行されるたびにタイトルが変更されており、『吸血鬼』や『地球最後の男』も同一の内容です。
地球上の人間が謎の病によって吸血鬼化してしまい、生き残った人間が人類生存のために闘い続けるという、様々な作品にオマージュされている有名なストーリーの原点と言われています。
吸血鬼やオカルトの謎を科学的に解明する作品が好きな方におすすめです。
- 著者
- リチャード・マシスン著/尾之上浩司訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 286頁
- 価格(税込)
- 692円
『人類の子供たち』/P.D.ジェイムズ

※引用元:Amazon
あらすじ
時は2021年、世界中で子供が生まれなくなるという原因不明の現象が発生してから25年が経過した。
世界に絶望と無気力が蔓延するなか、イギリスの絶対権力を握る国守ザンのいとこである大学教授のセオは、反政府組織の女性と恋に落ちる。
やがてセオはザンの執政の恐ろしい裏側を知らされ、ザンに目をつけられ逃げ出してきた女女性と逃亡生活へと身を窶す…。
アカデミー賞受賞映画『トゥモロー・ワールド』の原作である傑作SF小説
本作は2007年に第79回アカデミー賞を受賞した大ヒット映画『トゥモロー・ワールド』の原作小説で、世界中で読まれた名作ディストピア小説です。
全編が本格的なSF小説であり、子供が生まれなくなった世界が、明確な終焉を向かえるのではなくゆっくりと沈んでいきます。
次の世代が誕生しなくなったため人類が途絶えることは確定しているのに、人々は残された時間をそれまで通り権力争いに費やし、殺人も無くならない…。
映画と原作小説はストーリーに異なる部分も多いため、是非両方お楽しみください。
- 著者
- P.D.ジェイムズ著/青木久恵訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 308頁
- 価格(税込)
- 694円
『白の闇』/ジョゼ・サラマーゴ

※引用元:Amazon
あらすじ
ある男が車の運転中に視界が真っ白になる病を発症したことをきっかけとして世界中に失明の病『ミルク色の海』が伝染する。
超自然的なこの現象は原因も全く不明のまま、世界は恐怖が引き起こしたパニックに包まれていく…。
ノーベル賞受賞作家であるジョゼ・サラマーゴが「真に恐ろしい状況」に挑む!
本書は1995年に初版が発行されましたが、新型コロナウイルスが爆発的に流行し世界中が恐怖に包まれた2020年、偶然にも新版が発行され、爆発的なヒットを生みました。
原因不明の感染症や失明への恐怖でパニックに突き落とされた世界を描き出したこの小説は、まさにコロナ渦の世界と同様の狂乱を描き出しています。
また、パンデミックを描いた小説の中でも特にこの小説が突出しているのは、この小説中の感染症が「失明」を引き起こすからです。
目が見えることを前提として設計された社会。人間は極限状態の中で簡単に人間性を捨て去り、社会を支えるシステムそのものが崩壊していく…。
新型コロナウイルス感染症の規制が緩和された今だからこそ読みたい作品です。
- 著者
- ジョゼ・サラマーゴ著/雨沢泰訳
- 出版社
- 河出書房新社
- ページ数
- 424頁
- 価格(税込)
- 1,430円
『高い城の男』/フィリップ・K・ディック

※引用元:Amazon
あらすじ
第2次世界大戦後、戦勝国となった枢軸国である日本とドイツの2大国家が世界を支配した。
日本の勢力下にあるサンフランシスコでアメリカ美術工芸品を経営するロバート・チルダンは、通商代表部の田上信輔に平身低頭で商品の説明をしていた…。
第2次世界大戦の勝敗が逆転した世界|有色人種とナチスが支配する世界
第2次世界大戦において、枢軸国が勝利したイフ世界を描いた本作『高い城の男』。
海外のSF作品のなかでは珍しく日本人の登場割合が多い作品です。
ただ、あくまでもフィリップ・K・ディックの持つ「日本人」というイメージのため、日本人らしさを感じられるというよりは、「易経」など東洋の神秘的なイメージや有色人種への差別意識が全面に出ており、人を選ぶ内容ではあります。
しかし、ナチス政権が存続したドイツが市民の生活の発展よりも技術開発に力を入れていたり、後半にスパイ小説のような要素があったり、SF小説やフィリップ・K・ディックが好きな方にはおすすめです。
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の世界観が好きな方は、是非本作に挑戦してみてください。
- 著者
- フィリップ・K・ディック著/浅倉久志訳
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 432頁
- 価格(税込)
- 1,056円
【日本人編】ディストピア小説おすすめ8選!

『虐殺器官』/伊藤計劃

※引用元:Amazon
あらすじ
9.11をきっかけに、徹底的なセキュリティ管理体制に移行した先進諸国と内戦や大量虐殺が急激に増加した後進国とで二分された世界。
アメリカで結成された戦闘のための医療措置を施した暗殺のための特殊部隊、「アメリカ情報軍特殊検索群ⅰ分遣隊」。
その暗殺対象リストに掲載されたジョン・ポールという人物が訪れた国では必ず半年以内に内戦や大量虐殺が始まる。
母国アメリカを敵に回し、闘争を続けている「虐殺の王」の目的とは…?
2017年にアニメ映画化された、日本のSF界を代表する名作
本作『虐殺器官』や『ハーモニー』などを発表し、日本のSF界のなかでもっとも有名な作家のひとりとなった伊藤計劃。
代表作である『虐殺器官』は2017年にアニメ映画化され、大きな反響を呼びました。
大規模テロに対処するため、戦闘に適した身体になるよう様々な医療措置を施された特殊部隊の精鋭チームがひとりの凶悪犯を追う一連の捜査活動を描いた本作。
『攻殻機動隊』など、技術によって強化された精鋭チームが犯罪捜査を行うストーリが好きな方におすすめです。
同著者の作品である『屍者の帝国』や『ハーモニー』とあわせてお楽しみください。
- 著者
- 伊藤計劃
- 出版社
- 早川書房
- ページ数
- 428頁
- 価格(税込)
- 792円
『白い服の男』/星新一

※引用元:Amazon
あらすじ
誇らしい白い制服をまとった我ら特殊警察が捜査をするのは、横領や強盗、殺人などただの犯罪ではない。
特殊警察に与えられた任務はただ一つ、人類の平和を脅かす不安分子を見つけ出し、排除することである…。
「平和」の虚妄性
日本3大SF作家のひとり・星新一の手掛けるディストピア小説『白い服の男』。
ショート・ショート寄りの短編小説のため、時間や手間をかけることなくディストピアを味わうことができます。
差別問題などで度々話題になる、「寝た子を起こすな」問題。
本作では、差別されてきたということを知らなければ差別は起こらないのではないか、という理論を戦争にあてはめ、「戦争」という語句を禁句とし、子供の「戦争ごっこ」も厳しく禁じた「平和」な社会を諧謔的に描いています。
「戦争」をなくし「平和」を維持するために、密告や磔刑を推奨する社会。
「平和」の虚妄性を星新一特有のユーモラスな雰囲気でお楽しみください。
- 著者
- 星新一
- 出版社
- 新潮社
- ページ数
- 224頁
- 価格(税込)
- 605円
『殺人出産』/村田紗耶香

※引用元:Amazon
あらすじ
人は人生で4度、殺意を覚えるーー。
殺人が悪であった社会から100年、日本は人口を保つため、10人産んだら1人殺せるという「殺人出産システム」を導入していた。
会社員の育子の姉は「産み人」となり、殺人を犯すために10人目の出産を控えている。
人々の殺意が未来に命をつなぐ。
『コンビニ人間』の著者が描く衝撃の日本社会
芥川賞を受賞し、世界中で翻訳・出版された現代日本文学の傑作『コンビニ人間』の著者・村田沙耶香は、実はディストピア小説の名手でもあります。
村田沙耶香のディストピア小説としてもっとも有名なのは『消滅世界』という作品ですが、本作『殺人出産』も異様な魅力を放つ作品です。
「10人産めば1人殺せる」という衝撃のシステムによって保たれている日本社会と、誰かの命を奪うために命を生み続ける人々。
およそ想像もつかないような衝撃の日本社会は、私たちに異様ともいえる不気味さを味わわせてくれます。
短編集のため読みやすく、村田沙耶香ワールド入門にもおすすめです。
- 著者
- 村田沙耶香
- 出版社
- 講談社
- ページ数
- 298頁
- 価格(税込)
- 660円
『リリース』/古谷田奈月

※引用元:Amazon
あらすじ
ジェンダー平等が実現し、同性愛者たちもマジョリティの一員となった未来世界。
同性愛者の男子大学生タキミナ・ポナは、オリオノ・エンダと共に精子バンクを占拠し、衝撃の演説を行った…。
「マイノリティという存在を概念ごと捨て去ることに成功したこの素晴らしい社会が、ぼくの人権を侵したのだということです。」
ジェンダー問題やLGBTQを題材とした本作『リリース』では、マイノリティという概念がなくなった理想郷で、自身が国家による重大犯罪の被害者であると主張する同性愛者の青年が精子バンクを占拠するという物語が描かれます。
平等が完全に実現した社会で、マイノリティの一員に組み込まれた青年は、何を訴えるのか…。
実現したユートピアが実はディストピアだった、というディストピア小説では使い古されたテーマながら、性的マイノリティ問題という新しい問題に挑戦した本作。
マイノリティを抱える人々への圧倒的な想像力を持つ著者が、小説というコンテンツに託した想いを是非感じ取ってください。
- 著者
- 古谷田奈月
- 出版社
- 光文社
- ページ数
- 363頁
- 価格(税込)
- 957円
『バトル・ロワイアル』/高見広春

※引用元:Amazon
あらすじ
瀬戸内海に浮かぶ小さな島にある分校で、42名の中学3年生たちは新しい担任を自称する見知らぬ男から「プログラム」の開始を告げられる。
武器が与えられ、ただひとりの勝者が決定するまで殺しあう残酷な椅子取りゲームが幕を開ける…。
文学界に賛否両論の嵐を巻き起こした衝撃の問題作
あらすじに記載した通り、本作は中学生が武器を手に取り、最後の1人になるまで殺しあう、という聞く人が聞けば眉を顰めるような内容であり、実際にある文学賞において選考委員のひとりから徹底的に酷評されました。
現在では漫画やアニメなどで比較的よく見られるようになった「青少年同士の殺し合い」という題材は、本作が発表された90年代当時においてはかなりセンセーショナルなものであり、発売当初から様々な批評が飛び交い、本作は「問題作」と位置づけられるようになったのです。
しかし、一部の批判とは対照的に世間では大きな話題となり、文庫本発売翌年には映画化され、コミカライズ版も大人気となりました。
ところどころ文学的でない表現も目立ちますが、とにかくスピード感があり、映画を観るように楽しむことが出来る作品です。
- 著者
- 高見広春
- 出版社
- 幻冬舎
- ページ数
- 510頁(上巻)
- 価格(税込)
- 869円(上巻)
『残月記』/小田雅久仁

※引用元:Amazon
あらすじ
「そして月がふりかえる」
不遇な人生の末に幸福を手にした男が、ある日突然ほとんど同じ、けれど決定的に違う世界に放り込まれる。
「月景石」
叔母の形見である月の風景が表面に浮かぶ石。生前、叔母は石を枕の下に敷いて眠ると、月へ行けるが「悪い夢」を見るといった。主人公はそれを思い出し、実行するが…。
「残月記」
近未来の独裁政権となった日本、差別対象である伝染病・月昴に侵された主人公は愛する女性のため、命をかけて戦い続ける。
2023年度日本SF大賞受賞!日本のSF界が生んだ新たな傑作
日本SF作家クラブという、筒井康隆ら多くの著名なSF作家が名を連ねる会が毎年選考し、発表する日本SF大賞。
小田雅久仁の代表作である本作『残月記』は、2023年にこの賞を受賞しました。
「月」をテーマに3本の作品が収録されており、特に表題作「残月記」はディストピア色の強い作品です。
獣的とも言えるような通常の人間以上の能力を得るかわりに、死亡率が高い発作を定期的におこす謎の伝染病「月昴」。
独裁政権下の日本は罹患者を隔離する政策をとるが、その裏では血に飢えた上流階級の欲求を満たすため、罹患者のなかから選抜されたメンバーによるバトルロワイヤルが開催されていた…。
幻想的なSF小説が好きな方におすすめの作品です。
- 著者
- 小田雅久仁
- 出版社
- 双葉社
- ページ数
- 384頁
- 価格(税込)
- 1,750円
『新世界より』/貴志祐介

※引用元:Amazon
あらすじ
人間たちが「呪力」と呼ばれる超能力を身に着けた1000年後の日本。
自然豊かな集落にある一見のどかに見える学校で、子供たちは平和に暮らしていた。
しかし、12歳の少女・渡辺早季が同級生たちと町の外へ出かけた先で、先史文明が残した図書館の自走型端末から1000年前の文明が崩壊した理由を知り、仮初の平和は崩壊する…。
『別冊少年マガジン』でコミカライズが連載され、アニメ化もされた名作SF小説
日本のSF小説の中でも、特にライト層への知名度が高い本作『新世界より』。
2012年から2014年まで『別冊少年マガジン』でコミカライズ版が連載されていたため、そちらを読んだ方も多いかもしれません。
2012年にはアニメ化もされており、『新世界より』の圧倒的な世界観が画面に描き出されました。
とにかく世界観の作りこみがすごい作品で、読者の頭の中にも全く新しい世界が1から作り上げられていきます。
勢いのある冒険譚のため、小説を読みなれていない方にもおすすめです。
- 著者
- 貴志祐介
- 出版社
- 講談社
- ページ数
- 488頁(上巻)
- 価格(税込)
- 968円(上巻)
『火星に住むつもりかい?』伊坂幸太郎

※引用元:Amazon
あらすじ
交代制の「安全地区」と、そこに配置される「平和警察」。
治安のために設計されたこの制度によって実際に犯罪は減少しているとされるが、人々は平和警察や密告に怯える疑心暗鬼の生活に陥った。
住民が相互に監視し、密告する社会。密告され、危険人物とみなされた人間は例え無実であろうとも拷問され、ギロチンにかけられる…。
伊坂幸太郎ワールド全開の娯楽小説
『AX』や『ゴールデンスランバー』など、数々のヒット作を世に出してきた人気作家・伊坂幸太郎。
そんな彼の作風が余すことなく発揮されたのが本作『火星に住むつもりかい?』です。
相互監視が義務付けられ、密告におびえながら知人全員を密告者ではないかと疑う日々。
ディストピア小説の中ではよくある設定ですが、本作ではそれに抗う「ヒーロー」が登場します。
SF小説にありがちの難解な用語や科学技術の解説も無く、非常に読みやすい娯楽小説のため、是非気軽に手に取ってみてください。
- 著者
- 伊坂幸太郎
- 出版社
- 光文社
- ページ数
- 501頁
- 価格(税込)
- 858円
人類の行く末か?衝撃の未来に震撼せよ

圧倒的な筆力によって描かれる想像を絶するような未来社会。
実は、すぐそこまで迫ってきているかもしれません…。
衝撃の未来から逃れるために、何をすべきか?
是非、物語を紐解いてみてください。