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「ナラティブ」とはどんな意味なのか?様々な分野で使われる意味も解説

ナラティブ類義語言葉の意味使い方

2021/08/16

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「ナラティブ」とはどんな意味なのか?

「ナラティブ」とは、「物語」「物語文学」「話術」「語り口」といった意味を持つ言葉で、医療・教育・ビジネスといった実用分野で幅広く使われています。

また、文学やゲームなどを語る際にも使われているため、文脈から何となく意味は推測できても、どのような意味なのか具体的に説明できない方も多いのではないでしょうか。

そこで、「ナラティブ」とはどのような意味なのか、また、「ナラティブアプローチ」などの使い方についても紹介していきます。

ストーリーとの意味の違いについて

「ナラティブ」と似た言葉として「ストーリー」を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。

「ストーリー」は物語の内容や筋書きを指します。物語の登場人物を中心に展開するため、物語の「語り手」や「聞き手」は存在していません。

一方「ナラティブ」は、主人公は登場人物ではなく「語り手」自身であり、「語り手」自身が紡ぎだす物語のことです。また、「語り手」が紡ぎだす物語は絶えず変化し続けるため、終わりがないのも特徴と言えます。

ナラティブはいつ頃から使われ始めたのか?

「ナラティブ」は様々なシーンで使われるため、意味を理解するには、「ナラティブ」がどのような場所で、どのように使われてきたかを知るとよいでしょう。

ここからは、「ナラティブ」がいつ頃、どのような使われ方をしていたのかを見て行きましょう。

誕生の背景

「ナラティブ」は、1960年代ごろのフランスの構造主義を中心に、物語の役割について関心が高まる中で、「ストーリー」とは異なる文学理論の用語として使われるようになりました。

ちなみに、日常でもよく耳にする「ナレーション」「ナレーター」という言葉は、「ナラティブ」から派生して広がった言葉です。

使い方

「ナラティブ」の使用例をいくつか挙げると、医療分野では「患者のナラティブを尊重する」「臨床現場でナラティブを実践する」といった使い方がされています。

また、そのほかでは、「このゲームはナラティブだ」「ナラティブとは、ブランド体験がユーザー自身の物語として語られている状態」など、様々なシーンで使われています。

様々な分野での「ナラティブ」の意味6つ

「ナラティブ」とは、「物語」「物語文学」「話術」「語り口」といった意味をもちますが、使われる分野によってどのような意味を持つのか知っておくと、文脈の理解を助けるでしょう。

ここでは、福祉・看護・医療・心理学・ゲーム・物語のそれぞれの分野において、「ナラティブ」がどのような意味を持つのか紹介していきます。

1:福祉

福祉のサービスには、相談者の相談を受けるソーシャルワーカーがいますが、ソーシャルワーカーの経験だけで判断して提案してしまうと、相談者にとって必要な福祉サービスを提供できない可能性があります。

そこで、「ナラティブ」の考え方が重要となります。現在の状況や困っている状況を相談者自身に語ってもらうことで、たとえ福祉に直接関係ないことであっても、問題を解決するために重要なヒントが隠されている可能性があるからです。

「ナラティブ」の考え方を取り入れることで、今まで解決できなかった問題を、解決できる可能性が開けるでしょう。

2:看護

看護の現場では、医師の診断では問題がなくても、患者本人が痛みや不安を抱え、苦しんでいるのであれば、患者の「ナラティブ」を聞いてあげることが大切と考えられています。

患者の「ナラティブ」を聞くことは、患者の痛みを共有することにつながり、最善の看護を施すことにつながります。

3:医療

医療技術の発達に伴い、迷信・呪術などの科学的根拠のないものは排除されてきましたが、患者の医療への不満が解消されることはなく、課題と考えられてきました。

そんな中、注目されたのが、患者の語りに注目し、患者との会話を通じて治療を行う「ナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)」です。

医師が検査結果だけで治療方針を決めるのではなく、患者の声に耳を傾け、患者の状況を共有するプロセスを踏むことで、患者の医療に対する満足度が高まると考えられています。

EBM根拠に基づく医療

「ナラティブ・ベイスト・メディスン(NBM)」と相互に補完し合い、相乗効果を発揮するものとして、「エビデンス・ベイスド・メディスン(EBM)」という考えがあります。

EBMは、その名の通り「根拠に基づく医療」という意味です。
これまでの医療が、医師が持つ医学的知識と経験に基づいていたものとすると、EMBは、最新の臨床研究に基づき、統計的に有効性が確認された治療方法を選択するという考えです。

4:心理学

心理療法のひとつに、その人の「ナラティブ」を書き換え、新たなストーリーを構築する「ナラティブセラピー」という療法があります。

セラピーを受ける前のクライアントの「ナラティブ」は、思い込みや偏見のある「ドミナントストーリー」の状態です。そこで、セラピストは、クライアントと一緒に、新たな「オルタナティブストーリー」を作っていきます。
クライアントの「ドミナントストーリー」の中の、解釈の偏りを見つけ、好ましい「オルタナティブストーリー」に書き換えるのをサポートするのが「ナラティブセラピー」です。

5:ゲーム

「ナラティブ」なゲームとは、設定された中でするのではなく、選択して実行する自由が与えられているゲームを指します。

自分自身がゲームの主人公となり、ゲームの中での体験が実際に体験したことのように記憶に刻まれるという効果が期待できます。

6:物語

物語は、その物語を思い出したときの状況によって上書きされ、新たな物語として生まれ変わることがあります。事実は変わらなくても、新たに意味づけすることで、捉え方が変わるからです。

「物語のナラティブ」は、事実かどうかを重要とするのではなく、語り手の感情を、リアルなものとして捉えることを意味します。

ナラティブアプローチについて

「ナラティブアプローチ」とは、語りや物語を通して、何らかの現象に迫る実践的な方法です。医療・臨床心理・キャリアコンサルティング・司法など様々な分野で取り入れられていますが、広い概念を持つため、明確な定義はありません。

そこで、ここでは一般的に捉えられている「ナラティブアプローチ」の考え方について紹介します。

社会構成主義

「ナラティブアプローチ」は社会構成主義の考えに基づいていることを踏まえ、社会構成主義についても見ていきましょう。

たとえば、あるマンガを読んで面白いと感じるかどうかは、他の人々の感想や評価の影響によってつくられているとも考えられます。

このように、「考え方や感じ方は、物事は社会との相互の影響の中で形作られるものである」と考えることを社会構成主義と言います。
「ナラティブアプローチ」では、ストーリーを語ることで問題・課題を外に出してもらい、語り手と聞き手が相互に影響し合いながら、ストーリーに変化を生み、考え方を変えていく手法です。

使われ方

「ナラティブアプローチ」は、以下の分野で実践的に使われています。
・心理の臨床
・医学の臨床
・社会学
・文化人類学
・キャリアコンサルティング
・司法領域

このほかに、最近ではビジネスの分野においても、消費者が主人公となり、企業が紡ぐ物語に参加できる「ナラティブマーケティング」が広がりつつあります。商品が自分の物語の一部になることで思い入れが強くなることを利用した手法です。

ナラティブアプローチの手法5つ

「ナラティブアプローチ」では、カウンセラーが相談者に対して助言を与えたり、指導をしたり、問題について判定したりすることはありません。

カウンセラーは、相談者が語る物語を聞き、解決方法を見つけるサポートを行います。

1:ドミナントストーリーを聞く

「ナラティブアプローチ」では、相談者が語る物語を重視するため、聞き手は相談者が語る内容に傾聴します。

中でも、相談者から最初に語られる話を「ドミナントストーリー」と呼び、その人の思い込みや考え方の偏りが多く含まれるため、特に重視されます。

2:問題を外在化させる

相談者が語る物語には、その人の価値観や認知の偏りにより、ネガティブな経験がつなぎ合わされたものがあります。このような状態のとき、人は起こっている問題を自分から切り離すことができず、内在化させ、問題を自分の一部であるかのように捉えています。

そして、問題を自分の一部と捉えることで、「ダメな自分」と自分自身を悪く思うようになってしまいます。

「ナラティブアプローチ」では、問題に名前を付けることで、内在化している問題を外在化し、本人と切り離していきます。

外在化することで、問題を客観的に見られるようになり、偏った考えから別の見方ができるようになります。

3:反省的質問をする

「ナラティブアプローチ」では、聞き手は反省的な質問をすることで、相談者の問題に誰が関わり、どのようなできごとや経験が関与しているのか考察していきます。

たとえば、職場での悩みであれば「仕事ができないために、職場の人間関係がうまくいかないということですが、自信を持ってできる仕事にはどのようなものがありますか」といった質問をしていきます。

4:例外的な結果を見つける

「ナラティブアプローチ」では、反省的な質問をしていくことで、「ドミナントストーリー」とは異なる部分が見えてくることがあります。

聞き手は、その部分についてさらに反省的質問を重ね、新たな物語を構築する手助けをします。

5:オルタナティブストーリーを構築する

「ナラティブアプローチ」で発見した、「ドミナントストーリー」とは異なる部分をもとに、新しい意味づけを相談者に気づかせ、新たな物語を作っていきます。

「オルタナティブ」とは代替を意味する言葉ですので、「ドミナントストーリー」に変わる新たな物語を再構築することを「オルタナティブストーリーを構築」すると言います。

ナラティブの意味について詳しく知ろう

様々な分野で「ナラティブ」が取り入れられているのは、情報があふれ、多様化が進む中で、画一的なサービスでは対応できないケースが増えてきたからと考えられます。

このような時代背景の中で、「ナラティブ」という考え方は、今後もより多くの分野で使われることが想定されますので、「ナラティブ」の言葉の意味や、使われ方を理解しておくとよいでしょう。

この記事を書いた人

Bee

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